技術的な挑戦を結果論で否定してはいけない
高速船クイーンビートルの浸水隠蔽についての第三者委員会調査報告書について、格付け委員会委員長が「一番大事なのは、なぜこんな船を選んだのかだ」と言ったそうだが、この発想には技術的な挑戦を否定する点でも問題がある。より快適な船の旅を実現しようとしたのに、結果論だけでその選択を批判するべきではない。もちろん、経済的損失に関する決裁者の責任は重いが、第三者委員会が運航に関する安全軽視に注目したのは当然だ。
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高速船クイーンビートルの浸水隠蔽についての第三者委員会調査報告書について、格付け委員会委員長が「一番大事なのは、なぜこんな船を選んだのかだ」と言ったそうだが、この発想には技術的な挑戦を否定する点でも問題がある。より快適な船の旅を実現しようとしたのに、結果論だけでその選択を批判するべきではない。もちろん、経済的損失に関する決裁者の責任は重いが、第三者委員会が運航に関する安全軽視に注目したのは当然だ。
高速船クイーンビートルの浸水隠蔽についての第三者委員会調査報告書について、格付け委員会が批判したという。委員長が「一番大事なのは、なぜこんな船を選んだのかだ」と言ったそうだが、どんな船であろうが、選択を誤った船であろうが、安全に運航するのが大事なのだよ。安全でないなら運航してはいけない。運航の安全は、人の命の話です。それよりも船を選んだ経緯が大事だと考えるのは、お金の不祥事ばかり見ているからかな。
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20241228-OYTNT50012/
J-SOX実施基準の2023年の改定で追加された事項の中で、IT業務処理統制評価の頻度は特定の年数を機械的に適用すべきではないことが明確にされた。以前は「一定の複数会計期間に一度の頻度で」とあったので、固定的に頻度を決めて失敗したケースがあったのかもしれない。前年度の評価結果の継続利用に何らかの懸念があれば、改めて評価をすべきなのだ。特にITがパッケージの場合は、ユーザが意図しないシステム変更があり得るから。
J-SOX実施基準の2023年の改定で追加された事項の中に、経営者が内部統制を無視する事態をいかに防ぐか、という説明がある。具体策の一つが「内部監査人による取締役会及び監査役等への直接的な報告」である。経営者が内部統制を無視した事態に内部監査人が気付くこともあるし、内部監査人が報告した問題が経営者による内部統制無視の影響だと取締役・監査役が気付くこともある。ただし、内部監査人が独立的であることが前提だ。
J-SOX実施基準の2023年の改定で追加された事項の中に、評価範囲を決める際の監査人との協議についての説明がある。「評価範囲の決定は経営者が行う」としたうえで、この協議は「監査人による指摘を含む指導的機能の一環」としている。この「経営者」は現実には内部監査人だが、決めた結果を監査人に示して指摘を待つのではなく、決めた根拠を監査人に説明・説得しなければならない。虚偽記載リスクの在り処は、監査人には分からない。
J-SOX実施基準の2023年の改定で追加された事項の中に、内部統制とガバナンス、全組織的リスク管理の一体的整備・運用に関する説明がある。この三つは、同じ活動に見る角度により別の名称がついているようなものだ。経営者が主語のときはガバナンス、従業員が主語のときは内部統制で、いずれもパフォーマンスとコンプライアンスが目的だ。そして、丁寧に扱うところを重要事項に絞り込むリスク管理によりこの活動が実現可能になる。
内部統制報告制度の実効性について考えている。三点セットを各部署に点検してもらうと、部署によって固有の修正が生じ、三点セットの種類が増える。そのとき、キーコントロールの手順を共通にしておかないと、運用状況評価の負担が重くなる。さらに、情報システムを共通にしておかないと、IT業務処理統制評価も重くなる。部署固有のアドオンをすると、評価を個別にしなければならなくなるので、よほどの理由がなければ避けるべきだ。
内部統制報告制度の実効性について考えている。内部統制評価が形骸化したケースがありそうだ。評価してはいるが、三点セット(業務フロー、業務記述書、RCM)は実態と一致しておらず、不備があっても指摘せず、というような。三点セットの維持管理には各業務の担当部署の協力が不可欠だ。毎年当事者が点検すれば、負担はそれほど大きくない。その部署にとっては、内部統制が自分事になる。不備は指摘して、期末までに改善すればよい。
内部統制報告制度の実効性について考えている。内部統制評価範囲を決めるとき、実施基準にある「連結売上高の2/3」、「売上高・売掛金・棚卸資産につながる業務処理」を機械的に当てはめてはいけない。装置産業の製造業なら固定資産が大きな製造子会社の固定資産管理プロセスを、付加価値が大きい製造業なら原材料購買プロセスや在庫管理プロセスを追加する。その結果、売上高のカバー率は2/3をはるかに超えてしまうが、それでよい。
内部統制報告制度の実効性について考えている。子会社のある業務にリスクがあることに気付いても、内部統制評価の範囲に加えたくない理由がある。それを評価範囲に加えると、その業務を担う子会社の全社統制評価とIT統制評価が自動的に評価範囲に加わり、負担が大きく増えるのだ。それはなるべく抑えたいところだ。評価範囲に加える業務のリスクに応じて全社統制評価とIT統制評価を簡素化し、負担軽減を検討してみてはいかがか。
内部統制報告制度の実効性について考えている。「全拠点の幹部に虚偽記載リスクを理解してもらう必要がある」と書いたが、実は単純な話だ。重要な虚偽記載リスクにつながる事項はたいてい予算化されている。予算管理上のごまかしや失敗の隠ぺい・先送りは、社内の人事評価等の問題ではなく、虚偽記載につながる。製造原価予算や積算予算も含む。生産量や在庫量のごまかしは、金額的な影響が直接見えないので、特に注意喚起したい。
内部統制報告制度の実効性について考える。内部統制評価の範囲の決め方が実施基準にあり、事業拠点を売上高の大きい順に並べて、上位から累計で連結売上高の2/3を占めるまでを重要は事業拠点とする考え方が例示され、重要性の大きい業務プロセスがあれば評価対象に追加することとしている。「他に重要性の大きい業務プロセス」を洗い出すのが、本社からだけでは難しい。全拠点の幹部に、虚偽記載リスクを理解してもらう必要がある。
内部監査部門と監査役の関係を考えている。内部監査部門は社長直轄が基本だ。社長の目となって、社内各部署の内部統制を評価するのだ。一方、社長は取締役でもあり、監査役に監督される立場である。社長にとって、監査役と内部監査部門が連携することはあまり気分の良いものではないのかもしれない。私の経験の範囲では、社長の直轄でありながら、社長が監査に注文を付けることはほぼなく、監査役と等距離の関係でいられた気がする。
内部監査部門と監査役の関係を考えている。会社法に基づき、監査役は取締役の業務執行を監査する。取締役の業務執行は「ガバナンス」が中核である。ガバナンス体制は全社に及ぶが、少人数の監査役が全社をくまなく見ることは不可能なので、内部監査部門の監査結果に頼ることになる。そういう意味で、内部監査部門は監査役の能力を補うことを期待されていると考えられる。ということは、内部監査部門は監査役の手下ではなく、対等だ。
内部監査部門と監査役の関係を考えている。内部監査部門長の人事には監査役が関与すべきではないか、という議論があるそうだ。これは、一般には無理があると思う。監査役には、次の内部監査部門長に相応しい者を探す手段がない。ただし、現内部監査部門長が相応しい者か否かを評価することは、一定の期間を経れば可能である。内部監査部門長が相応しい者ではないと判断したときに意見を言うのは、監査役の通常の役割の範囲である。
内部監査部門と監査役の関係を考えている。よほどの大企業でなければ、監査役にスタッフはいないので、監査役が内部監査部門に監査役監査の記録係などを依頼することがある。部員が複数いる内部監査部門であれば、部員に対応させることで、さして支障はなく、教育的効果もありそうだ。一方、内部監査部門が部門長だけのときは部門長が監査役監査に同席することになる。内部監査部門長が監査役の手下のようで、これはまずいだろう。
内部監査部門と監査役の関係を考えている。内部監査には国際基準があり、公認内部監査人(CIA)などの制度もある。ところが、監査役には監査役監査基準はあるが、認定制度等はない。内部監査も皆が国際基準に精通しているわけではないが、監査役はそれ以上に能力や考え方のバラツキがあるだろう。ただし、株主に対する責任が、真摯さの支えになっている。社内での立場は監査役が一段上になるが、協力関係においては対等でありたい。
内部監査部門と監査役は協力すべきだ。内部監査と監査役監査は、対象や目的は異なるが、活動や情報が重複する部分があり、効率と効果の観点から、協力することが期待される。そのために、たとえば毎月あるいは必要都度、情報共有のための会合を開催する例がある。そのとき、内部監査部門から監査役へと同じぐらいの情報量を、監査役から内部監査部門へ提供すると、内部監査部門の監査がレベルアップし、経営層の関心に合ってくる。
兵庫県知事選の関連を取り上げる。一時、中小企業の社長が巻き込まれてマスコミの標的になった。ポスターの印刷を70万円余で請け負った広告業の経営者だ。SNSで、手柄を盛って主張したのはいただけないが、マスコミが叩かなければ気にする人は少なかっただろう。選挙活動が無償でも寄付にあたるなら、マスコミが一部の有力候補を取り上げて無償で報道するのは下心からなのか。マスコミは、公平に事実を伝えることが倫理であろう。
小林製薬の紅麹原料による健康被害の問題を振り返っている。行政への報告は「因果関係が明確な場合に限る」という方針を採ったと書いたが、これは安全管理部が消費者庁のガイドラインを読み解いて得た解釈だという。消費者庁のガイドラインにあいまいなところがあるとして読み解く作業をしたようだが、であれば消費者庁に確認すべきだった。この解釈が独り歩きし、健康被害の拡大防止より原因究明を優先する行動へとつながった。
小林製薬の紅麹原料による健康被害の問題を振り返っている。小林製薬には信頼性保証本部がある。その役割は、ビジネスを推進する事業部(製造部門・販売部門)に対して、製品の品質と安全性を担保する観点からのブレーキで、製薬会社には必須の機能である。ところが、議事録等を見ると、信頼性保証本部が行政への報告等に関して業績への影響を考えたことが分かる。役割を果たして喧嘩していれば、社長の判断は違ったかもしれない。
小林製薬の紅麹原料による健康被害の問題を振り返っている。小林製薬には危機管理規程が制定されていた。重大な製品事故等があったときに危機管理本部を設置することが、その規程に定められている。紅麹原料による健康被害に関しては、早い段階から社長は製品回収や終売の可能性に言及していたという。その時点で原因不明であっても、重大な製品事故には違いないはずだ。危機管理本部で集中的に検討すれば、結果は違ったであろう。
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